Philosophy
平田 知弘

肩の力が抜ける場所

平田 知弘

『100BLG』立ち上げメンバーである前田隆行、徳田雄人、猿渡進平、河野禎之、平田知弘が一堂に会し、『100BLG』の発足についてそれぞれの想いを語りました。

※(取材は町田市にある「DAYS BLG!」にて)

— この回では、平田がテレビのディレクターの仕事を通じて出会った認知症のひとたちとの交流のお話を中心にお伝えしていきます。

平田 僕はNHKのディレクターでした。福祉の番組を担当し、制作をしていました。僕の場合は「個人から社会を見る」仕事をしていたと思います。さまざまな生きづらさを抱える人たちを取材し、その人たちの抱える問題や困りごとを通して、社会の問題を映し出すということをしていました。
 「認知症」も番組のテーマのひとつでした。「本人の声を聴こう」という番組で、認知症の当事者の方々の声を集めようと、全国からメッセージを募集したんです。そのなかで、大阪の50代でアルツハイマー型認知症と診断された男性の方からの言葉がありました。それが、ぐっと胸に刺さりました。

「アルツハイマーになったら、悪いのでしょうか?」

 アルツハイマーになって「辛い」とか「苦しい」ではなくて、「悪いのでしょうか?」。このことばの裏にある、社会からの阻害や偏見、自分で自分を責めている、ご本人の苦しみが感じられて、はっとしたんです。 世の中のゆがんだイメージが、ご本人たちを苦しませているって。メッセージを受け取った身として、このゆがんだ見方、社会の「視線の病」をどうしたら変えていけるだろう? と考えるようになりました。

 「認知症」というテーマを掘り下げたいと思っていたとき、ディレクターの先輩から「会っておいたほうがいいひとがいる」と、紹介されたのが「DAYS BLG!」を運営する前田さんでした。

前田 2015年になるから、もう4年になるかな?

平田 はい。最初は取材ではなく、「DAYS BLG!」に行って一日過ごしたんです。ここに来ると、肩の力が抜けるというか。僕も元気になるんです。ここのメンバー※はみんな「自分はこういう人間で、こういうことをやって生きていきたい」と普段から口にするんですよね。そういうなかにいると、自分自身も触発されるし、ほっとするんです。そのうち息抜きをしに、通うようになりました。

※メンバー……「DAYS BLG!」は利用者ではなく、「メンバー」と呼ぶ。ここでは全員が仲間。

前田 ここに来て「元気になった」っていうひとは、けっこういるんです。ここのメンバーは、誰に対しても同じ対応ですもんね。肩書きをいくつも持つひとが来ようが、無職のひとが来ようがおんなじ。肩書きやプライドは置いておいて、一人のおっさんとして見られてるよね。

平田 そうですね。それが肩ひじはらなくて、楽なのかもしれません。

前田 認知症のひとに対して、支援とかサポートってよく言うけど、僕らが助けてもらうこともすごくある。
最近わたしは、腰が痛いんです。そんなことをぼやいていると、「俺が持ってやるよ」って荷物を持ってくれたり。もうすぐ90歳のじいちゃんがですよ。 昼飯食べたあとに、うとうとと眠くなってると「15分くらい昼寝したら? 起こしてやるよ、忘れてなければな」って。 持ちつ持たれつの関係で「DAYS BLG!」は成り立っています。

平田 こんな場所を増やしたくて、活動に飛び込むことにしたんです。

平田 知弘

tomohiro hirata

『100BLG』の代表取締役

映像ディレクターNHKディレクターとして、Eテレ「ハートネットTV」などの制作にたずさわる。介護・医療・認知症・自殺問題を中心に番組を制作。認知症に関する番組に、「[NHKスペシャル]シリーズ認知症その時あなたは」(2006年)などがある。制作協力に、「認知症になっても人生は終わらない 認知症の私が、認知症のあなたに贈ることば」(harunosora)がある。