100という理由
平田 知弘
『100BLG』立ち上げメンバーである前田隆行、徳田雄人、猿渡進平、河野禎之、平田知弘が一堂に会し、『100BLG』の発足についてそれぞれの想いを語りました。
※(取材は町田市にある「DAYS BLG!」にて)
— この回では、徳田が認知症のひとにやさしい地域・社会づくりの活動を通じて、感じた“足りないピース”についてのお話を中心にお伝えしていきます。
徳田 僕もNHKの番組ディレクターの経験があるんです。認知症の当事者やご家族の取材をしてきました。
平田さんのちょっと先輩です。
平田 そうですね。先輩!
徳田 「認知症のひとが苦しいのは、社会や環境に問題がある」というメッセージを込めて番組を作っていました。だけど、社会とか環境って一体誰なんだろう? と思うようになって。そこからディレクターの職を辞して、認知症をテーマに活動をしてきました。
社会や環境という漠然とした対象から、目の前のひと、お隣さん、地域や企業から変えていくことが社会を変えることにつながるのではと、「認知症のひとにやさしい地域づくり」に挑戦してきました。自治体や企業を対象にしたワークショップや研修をたくさんやったり、マラソンのタスキを北海道から沖縄までつなぐ「RUN伴※」の開催をしたり。RUN伴は、おかげさまで姉妹イベントも含めて3万人を超える方々に参加してもらっています。
※RUN伴……今まで認知症の人と接点がなかった地域住民と、認知症のひとや家族、医療福祉関係者が一緒にマラソンでタスキをつなぎ、日本全国を縦断するイベント。(リンク:https://runtomo.org/)
認知症にやさしいまち・コミュニティを目指して、前進はしているわけだけど。ただ、ワークショップや研修を数回するだけでは地域は変わっていかないという実感もあるんです。この「DAYS BLG!」も年間でものすごい数の見学者が来るんです。海外からも来る。ここに来ると、「すごい! 感動した!」って帰っていくんだけど、自分のところで取り入れるわけじゃない。結局なにも変わらない。すごくもったいないと思うんです。
これまでとは別のアプローチが必要なんだと思って。地域もそうだけれど「日常を変えていく拠点のようなもの」がないと変わっていかないんじゃないかとつくづく思います。そういう議論を重ねて、この5人が集まり、『100BLG』の構想がスタートしたんです。
河野 コミュニティをつくるためには、実践するひとが必要。『100BLG』と言っても、100個の介護施設を造るということではない。手広くやっていこうというわけではないんです。 同じ志をもって責任をもって、推進していく仲間が必要なんです。
徳田 「100」という数字に意味があって。1000だと多すぎる。10だと少ない。 日本のなかで、実のある考えが100あれば、それは無視できないムーブメントになると思うんです。獏とした対象だった「社会」が変わるきっかけにはなるはず。
猿渡 そう。認知症ケアへのアプローチも次のステップに来ている。次の時代をつくっていくのに、100人の仲間がいるというイメージです。 僕もこの5人であるから声をあげようと思ったわけで。それぞれが刺激をしあって、次の大きな一歩を一緒にふみ出せる仲間がいるというのはとても大きいですね。
徳田 僕は福祉業界に所属したことがないから、ちょっと引いた目で見ているところがあって。この業界は、○○流とか○○さんが実践する支援とかって、そこだけでやっているものが多いんですよね。「わたしは正しい、あなたは正しくない」という風習というか。正しさや文化が衝突し合う世界だなあと傍から見ていて思うんです。正しさの追求にエネルギーを費やすことは不毛だなと。
それだと狭い範囲でしか広がっていかない。型にはめ過ぎずに、学び続けるプロセスをつくる。認知症についてのアクションを自発的にできるひとを生むのではないか。これは8年やっている「RUN伴」の活動でも、すごく感じています。
もちろん、あまり形を作りすぎると結局BLG流ってなってしまうかもしれない。けれど、100のBLGがゆるやかにつながり、お互いが学びの場となったら面白いんじゃないかと思います。
takehito tokuda
- 『100BLG』のCFO(最高財務責任者)
- NPO法人認知症フレンドシップクラブ理事
- 株式会社DFCパートナーズ代表取締役
- 株式会社スマートエイジング代表取締役
1978年生まれ。2001年東京大学文学部を卒業後、NHKのディレクターとして、医療や介護に関する番組を制作。09年にNHKを退職し、認知症にかかわる活動を開始。10年より認知症フレンドシップクラブ理事。認知症の人と地域の人がタスキリレーをするRUN伴を企画。姉妹イベントも含め、全国3万人以上が参加するイベントに成長。NPOの活動とともに、認知症や高齢社会をテーマに、自治体や企業との協働事業やコンサルティング、国内外の認知症フレンドリーコミュニティに関する調査、認知症の人と家族のためのオンラインショップdfshopの運営などをしている。著書「認知症フレンドリー社会」(岩波新書)